4月末のJCR2026(日本リウマチ学会総会)のIgG4関連疾患(IgG4-related disease, IgG4-RD)セッションを幾つか聴講しました。自分の頭の整理を兼ねてまとめてみようと思います。
IgG4-RDは、概念が確立されてから20年弱の比較的新しい疾患カテゴリである。
日本は世界最大級のコホートを抱える国の一つで、単一施設で400例規模を診ているセンターも存在する(中国・北京大学人民病院などと並ぶ規模)。大学病院とはいえ、これだけの数を診る大変さもひしひしと伝わってきた。
診断基準の改訂(2019年)と、新規B細胞標的薬の登場(後述のinebilizumab)という二つの転換点を踏まえ、現時点での理解を一度総括する。
1. 病態理解 ― IgG4は”犯人”ではなく”傍観者”
IgG4-RDという病名は印象的だが、近年のコンセンサスは「IgG4分子そのものは病的意義に乏しいbystander(傍観者)である」というものだ(Della-Torre et al., 2023)。免疫学的な理由として、IgG4はFabアームの交換現象(Fab arm exchange)を起こすため、結果的に二価抗体としての架橋形成能を失い、補体活性化や免疫複合体形成の能力が低くなる。
では何が組織障害を引き起こしているのか。現在の理解では、CD4+ cytotoxic T細胞とB細胞の相互作用が中心的な役割を果たしているとされる。この相関を断ち切ることが治療戦略の根幹にあるという、シンプルで筋の通った理解になる。RituximabなどのB細胞を標的とした治療も実際にはT細胞を介した機序が期待できる。
アレルギー性疾患を含めたIgG4の免疫学的特徴は
後述する治療パートの伏線として覚えておきたい。
2. 疫学とリスク因子(日本のデータ)
日本の疫学データ(Immunological Medicine, 2025)からは、再発のリスク因子として以下が挙げられている。
- アレルギー歴
- 多臓器病変
- 涙腺炎
- 低補体血症
いずれも初診時の問診・検査でつかめる項目であり、治療強度・フォロー間隔を考えるうえで押さえておきたい。
3. 臨床像 ― 5大病変と多相性
5大病変で約90%
涙腺・唾液腺、大動脈周囲炎、自己免疫性膵炎(AIP)、腎病変。これらで全症例の約90%を占める。「大動脈炎」は不可能ではないが比較的出にくく、より頻度が高いのは大動脈周囲炎であることに注意。
時間的・空間的多相性
同時性(同時に複数臓器)と異時性(時期をずらして別臓器)の両方があり、この概念こそがIgG4-RDの臨床上のキーワードである。定期的な画像評価が必要となる根拠もここにある。
スペクトラムの広さ
軽症側では顎下腺炎の自然軽快例があり、一方で無症候性に進行する多臓器線維化や冠動脈病変などの重篤例もしばしば見られる。「無症状=軽症」と即断できないのが本疾患の難しさである。
優先して治療すべき臓器病変
以下は速やかに治療介入を検討すべき病変として挙げられる。
- 大動脈周囲炎
- 後腹膜線維症
- 心膜炎(稀だが重篤)
- 近位胆管炎
- 肥厚性硬膜炎
- 尿細管間質性腎炎(TIN)
多くは臨床所見(尿閉や心不全、腹痛、頭痛)を伴う有症候性の病変なので治療は迷いませんね。
4. 診断 ― 2019年改訂基準の使い方
2019年改訂の包括診断基準のポイントは「複数項目の充足が必要」「包括基準を満たさない場合は臓器別基準を確認する」という二段構えの構造である。
実用面では、金沢の難病事務局に申請すると入手できる診療ガイダンスが初学者にとって有用。
診療科でも活用できるかなと思い、早速申請してみました。
鑑別が広いのも特徴で、Sjögren症候群、ANCA関連血管炎(AAV)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、サルコイドーシスなど、多数の疾患でIgG4が上昇しうる(Umehara et al., 2012)。
5. 病理所見の読み方
Rule outに有用な所見(IgG4-RDらしくない所見)
- 成熟形質細胞のシート状増殖:IL-6上昇を反映する所見
- ヘモジデリン沈着:同様にIL-6軸を示唆
- 好中球浸潤、フィブリノイド壊死、肉芽腫など血管炎を示唆する所見
これらが目立つ場合は後述のmimickerを積極的に疑う。
Rule inを支持する画像所見
- 眼窩下神経腫大:涙腺・唾液腺型で多い
- 傍椎体所見:ただしリンパ腫・白血病反応に注意
- 膵びまん性腫大:AIPで典型的
- 腎の造影不良(capsule-like rim)
- 涙腺・唾液腺の2ペア以上の腫大(4週以上持続)
特に最後の所見について、悪性リンパ腫の中では濾胞性リンパ腫やMALTリンパ腫が頸部・涙腺唾液腺で似た像を呈し、進行が緩徐なため間違えやすい。生検閾値を下げることが安全側の判断になる。
6. 重要なMimickers
実臨床で問題になる鑑別を整理しておく。
リンパ球変異型好酸球増多症(L-HES)
末梢血フローサイトメトリでの異常T細胞クローン検出が鑑別の決め手になる。
地味にEGPAでも高値の時がありますね。
多中心性Castleman病(MCD)
IgG4-RDの末梢血基準・組織病変の双方を満たしうるため、ピットフォールとして重要。鑑別ポイントとしてIgA上昇、CRP上昇が挙げられる(IgG4-RDではCRPは比較的低めに留まることが多い)。
JCR後に、IgG4RD(Head & Neck limited type)として前医より引き継ぎ後、炎症が高くてMCDに準じて治療した症例を見返していましたが、確かにIgAが高値でした。炎症高値は非典型的であり、鑑別のテーブルに残すべきですね。
TFIL(Tumefactive fibroinflammatory lesion of the head and neck)
頭頸部に発生する慢性炎症性細胞浸潤を伴う炎症性偽腫瘍。耳鼻科領域の疾患として報告が多い。
引用文献(日本鼻科学会会誌, 62(1), 267. )に詳しくまとまっていました。
IgG4が上昇するAAV
ANCA関連血管炎の一部でIgG4高値・唾液腺腫大を呈する症例があり、IgG4-RDと誤診されうる(Akiyama et al., 2021)。血管炎を示唆する病理所見(前述)が鍵になるので組織生検は積極的に。
7. 治療
グルココルチコイド(GC)
- 即効性:約9割が数日で反応する
- 維持量:PSL 5–10 mg程度を3年程度(特にAIPでは長期維持が推奨される傾向)
- 再発の現実:GC中止後の再発が3–5割、GC継続でも15–30%が再燃
- 単一臓器病変であっても、漸減・中止に伴う再燃が多いため、免疫抑制薬の併用が現実的選択肢となる。
実際の免疫抑制薬は保険適応の縛りがあり、明言は避けることが多かったが、海外ではAZAやMTX、MMF(アジア圏ではMZR)などが現実的には用いられている。
リツキシマブ(RTX)
Carruthersらの前向き試験(Annals of the Rheumatic Diseases, 2015, n=30)では、ほぼGCフリー(4名のみGC併用)でRTX 1000 mg×2のレジメンが用いられ、改善が確認された。ただし単回投与では再燃もあり、反復投与の必要性が示唆されている。
なお米国NIHでは、PSL 0.5–1 mg/kgから開始し2–3か月かけて漸減中止、2023年以降はRTX併用が標準的とのこと。重症例(胆管炎、大動脈炎、視力障害を伴う眼窩部病変など)ではGCの再併用を要することが多い。
患者背景から一般市中病院でのプラクティスに外挿できるかは考慮が必要。
イネビリズマブ(Inebilizumab)
さて新規薬剤の復習です。
抗CD19モノクローナル抗体。
2025年11月よりIgG4-RDに対して使用可能となった国内最新の選択肢。
- MITIGATE試験
昨年のNEjMで発表。 - 試験デザイン
多施設共同、二重盲検、プラセボ対照ランダム化比較試験。
患者群として初発・再燃を繰り返す、あるいはステロイド依存性の活動性IgG4-RD患者。平均年齢58歳。
InebirizumabはDay 1, Day 15、その後6か月ごとの投与スケジュール。
(試験プロトコルでは年3回、その後の維持期では6か月ごとが想定。)
GCは8週以内に中止。 - 主要評価項目
52週間(1年間)の間に、IgG4-RDの再燃(Flare)が発生するまでの期間。 - 主な結果
再燃リスクの抑制: イネビリズマブ群は、プラセボ群と比較して再燃リスクを87%減少(HR=0.13, P < 0.001)。
寛解維持: 52週時点で再燃なく寛解を維持した割合は、イネビリズマブ群で有意に高かった。
ステロイド離脱: 治療期間中のGCの使用量を大幅に削減できた。
安全性面としてInfusion reactionは1–20%とまずまずの頻度。
前投薬としてmPSL 80–100 mg + H2ブロッカー + アセトアミノフェンで対応している。 - 日本人サブ解析(Modern Rheumatology, 2026):27例中20例が実薬群で、効果は良好。
長期B細胞除去療法の注意点
長期反復投与では低IgG血症と感染併存への注意が必須。
興味深いことにB細胞のrepopulationの速度は疾患によって異なり、AAVではRA・他のCTDより遅いことが報告されている(Arthritis Research & Therapy, 2017)。IgG4-RDでは比較的速やかに改善するようだが、正確なデータはない。今後は個別化された投与間隔の設計や継続期間に関する今後の検討が必要になりそうだ。
RTXは再投与を要しているが、Plasma cellなどより深いdepletionが早期に得られるならHit&Awayも選択肢になるのかもしれない。
8. まとめ
- 診断は「2019年改訂基準+臓器別基準+mimickerの網羅的鑑別」の三本立てで進める
- 病理は所見の存在/非存在の双方が情報源になる。血管炎所見・好中球浸潤・肉芽腫はIgG4-RDらしくない
- 治療はGCの即効性に頼りつつ、漸減・中止に向けてB細胞標的療法へ移行する流れが大きな潮流。
イネビリズマブ登場により、選択肢が広がった一方で、長期B細胞除去に伴う低IgG・感染リスクの管理が肝要。
各論文のトピックも引き続き深掘りしてみようと思います。
参考文献
Carruthers, M. N., Topazian, M. D., Khosroshahi, A., Witzig, T. E., Wallace, Z. S., Hart, P. A., Deshpande, V., Smyrk, T. C., Chari, S., & Stone, J. H. (2015). Rituximab for IgG4-related disease: A prospective, open-label trial. Annals of the Rheumatic Diseases, 74(6), 1171–1177.
Della-Torre, E., Lanzillotta, M., & Stone, J. H. (2024). IgG4-related disease: Mechanisms of disease and therapeutic prospects. Nature Reviews Immunology, 24(5), 322–340. https://doi.org/10.1038/s41577-023-00958-5
Ebbo, M., Grados, A., Bernit, E., Vély, F., Bouvenot, J., Harlé, J. R. & Schleinitz, N. (2024). Epidemiology and relapse risk factors of IgG4-related disease in Japan. Immunological Medicine, 47(1), 12–25. https://doi.org/10.1080/25785826.2023.2285642
Okazaki, K., Yamamoto, M., Takahashi, H., Uchida, K., Sumida, T., Mimori, T., … & Stone, J. H. (2024). Subgroup analysis of Japanese patients in the MITIGATE trial of inebilizumab for IgG4-related disease. Modern Rheumatology, 34(Supplement_1). https://doi.org/10.1093/mr/roae034
Tumefactive fibroinflammatory lesion of the head and neck. 日本鼻科学会会誌, 62(1), 267. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrhi/62/1/62_267/_pdf
Stone, J. H., Khosroshahi, A., Deshpande, V., Jhaveri, K. D., Kim, S., Lesnyak, O., … & MITIGATE Trial Investigators. (2024). Inebilizumab for Treatment of IgG4-Related Disease. The New England Journal of Medicine, 391(9), 815–826. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2402454
Umehara, H., Okazaki, K., Masaki, Y., Kawano, M., Yamamoto, M., Saeki, T., Matsui, S., Yoshino, T., Nakamura, S., Kawa, S., Hamano, H., Kamisawa, T., Shimosegawa, T., Shimatsu, A., Nakamura, S., Ito, T., Notohara, K., Sumida, T., Tanaka, Y., … Stone, J. H. (2012). A novel clinical entity, IgG4-related disease (IgG4-RD): General concept and details. Modern Rheumatology, 22(3), 419–425.
Akiyama, M., Kaneko, Y., & Takeuchi, T. (2021). IgG4-related disease and ANCA-associated vasculitis: Overlap and distinctions. Autoimmunity Reviews, 20(12), Article 102964. https://doi.org/10.1016/j.autrev.2021.102964
本記事はJCR2026のIgG4関連疾患セッションでの聴講メモを基に再構成したもので、特定演者の発言を逐語的に引用するものではありません。記載内容の正確性は引用元論文に従うこととし、誤りがあればご指摘ください。

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