特発性炎症性筋症に合併する悪性腫瘍のスクリーニング

膠原病の季節性として、筋炎やスティル病は春に多いようで、当院も4月から沢山勉強させて貰いました。
冬場の日照時間、日光曝露量の低下によるビタミンD欠乏などの機序が考えられているのが興味深いです。

さて、今回はIIMに関する悪性腫瘍スクリーニングに関してまとめてみます。
自己抗体で疾患を層別化したのと同様に、悪性腫瘍リスクに関しても抗体ごとに異なると考えて対応するよう勧められています。診断時に悪性腫瘍が見つからなかった時こそ慎重に対応したいですね。

Strategy Insight

-成人発症の特発性炎症性筋症(IIM)は発症前後3年以内に悪性腫瘍を合併するリスクが高く、その多くが進行癌として診断されるため早期発見が予後改善の鍵となる。
-本国際ガイドラインは、IIMサブタイプ・自己抗体・臨床所見に基づくリスク層別化(標準・中等度・高リスク)と、それぞれに対応した「基本」および「強化」スクリーニングパネルの実施タイミングを18項目の推奨事項として体系化した。
-抗TIF1γ抗体陽性皮膚筋炎を筆頭とする高リスク患者では診断時の網羅的精査に加えて3年間の定期的フォローアップが強く推奨されており、専門施設へのアクセスによらない標準化された精査の実践が期待される。

全体のスクリーニング概念図を先に提示します。

筋炎(IIM)関連悪性腫瘍スクリーニング 国際ガイドライン 概念図

Oldroyd AGS, et al. Nature Reviews Rheumatology, Vol.19, December 2023, 805–817 (IMACS initiative)
※本図は成人発症IIMで、症状出現から3年以内に診断された患者に適用される。

はじめに

特発性炎症性筋症(idiopathic inflammatory myopathy:IIM)は,筋炎,皮膚症状ならびに間質性肺疾患をはじめとする多彩な臓器病変を呈する慢性全身性自己免疫疾患である.成人発症のIIMにおいては,発症前後3年以内に悪性腫瘍を合併するリスクが一般集団と比較して有意に高く,IIM患者の4人に1人が発症3年以内に何らかの悪性腫瘍と診断されるとの報告もある.合併する腫瘍の種類は多岐にわたり,肺癌,卵巣癌,大腸癌,悪性リンパ腫,乳癌ならびに上咽頭癌が代表的なものとして挙げられる.

問題の深刻さはその予後にある.IIM関連悪性腫瘍の83%が診断時点ですでにステージⅢまたはⅣの進行癌であり,寛解率はわずか17%にとどまるとされる.悪性腫瘍は依然としてIIM患者における死因の第1位を占めており,その一因として診断の遅れが指摘されている.早期発見が患者の転帰改善に直結するという認識のもと,国際筋炎評価臨床研究グループ(International Myositis Assessment and Clinical Studies Group:IMACS)は,エビデンスとコンセンサスに基づく悪性腫瘍精査の国際ガイドライン策定に着手した.

ガイドラインの策定プロセス

本ガイドラインは,5大陸22カ国から集結した75名の専門家グループ(リウマチ専門医46名,神経内科医12名,皮膚科医9名,腫瘍内科医3名ほか)が,修正Delphi法を用いた複数回のオンライン投票を経て形成したものである.各推奨事項は投票の中央値が7〜9の場合をコンセンサスと定義し,強い推奨(1)または条件付き推奨(2)のいずれかに分類された.最終的に18項目の推奨事項が策定されるに至った.エビデンスの質に関してはGRADE方式を採用したが,高い(A)とされた推奨事項は1項目も存在せず,現段階でのエビデンスの限界を率直に示している点は注目に値する.

リスク層別化

本ガイドラインの核心をなすのは,患者個々のIIM関連悪性腫瘍リスクをIIMサブタイプ,自己抗体プロファイルならびに臨床所見に基づいて層別化する枠組みの提示である(推奨事項5〜8).
ただし,このリスク分類はIIM全体の集団を対照としたものであり,一般集団ではないことに留意する必要がある.

高リスク因子は,IIM全体と比較して悪性腫瘍リスクが特に高いとされる以下7項目から構成される.

皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)は,他のIIMサブタイプと比較してリスク比(risk ratio:RR)2.21(95%CI 1.78〜2.77)と最も高い悪性腫瘍リスクを示す.抗TIF1γ抗体陽性(転写中間因子に対する抗体)はRR 4.68と際立って高く,陰性例と比較して悪性腫瘍リスクが4倍以上に達する.抗NXP2抗体陽性(核内のマトリクス蛋白に対する抗体)もリスク上昇と関連するとしてエキスパートグループはこれを高リスク因子に分類した.IIM発症時年齢40歳超,免疫抑制療法にもかかわらず持続する高疾患活動性(治療抵抗性再燃を含む),中等度〜重度の嚥下障害,そして皮膚壊死または潰瘍の存在が残る高リスク因子として挙げられている.

中等度リスク因子には,無筋症性皮膚筋炎(clinically amyopathic dermatomyositis:CADM),多発性筋炎,免疫介在性壊死性筋症(immune-mediated necrotizing myopathy:IMNM)の3サブタイプに加え,抗SAE1抗体,抗HMGCR抗体,抗Mi2抗体,抗MDA5抗体の各陽性ならびに男性が含まれる.なかでも,IMNMにおいては抗SRP抗体陽性が低リスク,抗HMGCR抗体陽性が中等度リスクと,抗体プロファイルによってリスクが明確に異なる点が特筆される.

低リスク因子として同定されたのは,抗合成酵素症候群(anti-synthetase syndrome:AsyS, 抗Jo-1含む)および重複IIM,抗SRP,筋炎関連抗体(抗PM-Scl,抗Ku,抗RNP,抗SSA/Ro,抗SSB/La)陽性,さらにレイノー現象,炎症性関節炎,間質性肺疾患の存在である.

これらの因子の組み合わせに基づく総合的リスク分類は以下の通りである(推奨事項6〜8).
高リスク因子を2つ以上有する場合を「高リスク」,中等度リスク因子が2つ以上または高リスク因子が1つのみの場合を「中等度リスク」,いずれにも該当しない場合を「標準リスク」と定義する.
なお,「標準リスク」であってもIIM患者として一般集団よりは悪性腫瘍リスクが高い可能性があることを忘れてはならない.

スクリーニング方法と頻度

エキスパートグループは,悪性腫瘍精査を「基本スクリーニング」と「強化スクリーニング」の2段階に体系化した(推奨事項9・10).

基本スクリーニングには,詳細な病歴聴取および身体診察,血算,肝機能検査,赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate:ESR)および/または血漿粘度,CRP,血清蛋白電気泳動・フリーライトチェーン測定,尿検査,胸部単純X線が含まれる.鉄欠乏性貧血による大腸癌の示唆,単クローン性ガンマグロブリン血症による多発性骨髄腫の検出,肺癌の早期発見を主眼としたパネル構成となっている.

強化スクリーニングは,頸部・胸部・腹部・骨盤部CT,子宮頸がん検診,マンモグラフィー,前立腺特異抗原(prostate-specific antigen:PSA),CA-125,骨盤および/または経膣超音波(卵巣癌精査目的),便潜血検査から構成され,IIMに多い乳癌・肺癌・卵巣癌等の効率的な検索を目指したものである.

リスクに応じたスクリーニング頻度は以下の通りである(推奨事項11〜13).「標準リスク」では診断時の基本スクリーニングのみ,「中等度リスク」では診断時に基本+強化スクリーニングを実施し以後の定期検査は不要,「高リスク」では診断時に基本+強化スクリーニングを実施した上で,IIM発症から3年間にわたって毎年基本スクリーニングを繰り返すことが強く推奨されている.

なお,小児発症IIMおよび確定診断された封入体筋炎(inclusion body myositis:IBM)においては,悪性腫瘍リスクの上昇は認められないため,通常のスクリーニングは不要とされている(推奨事項1・2).

追加検査の考慮

高リスク患者で通常検査により悪性腫瘍が検出されない場合,¹⁸F-FDG PET-CTの実施が条件付きで推奨されている(推奨事項14).さらに,抗TIF1γ陽性DMかつ発症年齢40歳超で高リスク臨床所見を1つ以上有する患者では,¹⁸F-FDG PET-CTを単独の精査手段として用いることも選択肢に挙げられた(推奨事項15).これは,PET-CTが多数の通常検査を組み合わせたスクリーニングと同等の癌検出能を示すとする報告を根拠としており,検査数の集約と早期診断の両立を目指した現実的な判断といえる.一方で,被曝リスクや医療資源の限界についても留意が求められる.

上部・下部消化管内視鏡については高リスク患者で他の精査が陰性の場合に条件付きで推奨されており(推奨事項16),上咽頭がんのリスクが高い地域(東・東南アジア等)では鼻咽頭内視鏡の考慮も提唱された(推奨事項17).

また,体重減少,がん家族歴,喫煙歴,不明熱,寝汗といった「レッドフラッグ」症状を認める場合は,リスクカテゴリーにかかわらず悪性腫瘍精査を検討すべきとしている(推奨事項18).

おわりに

本ガイドラインは,成人発症IIM患者における悪性腫瘍のリスク層別化,精査方法ならびに精査頻度に関して,初めてエビデンスとコンセンサスに基づく国際的な指針を提示したものとして,その意義は大きい.IIMは専門施設以外でも広く診療される疾患であり,本ガイドラインが現場の医師と患者が一体となった個別化精査の実践を後押しすることが期待される.一方,現段階ではエビデンスが限られており,「高(A)」の根拠を持つ推奨は存在しない点,また精査の効用を経験的に検証した研究がいまだ不十分である点は今後の重要な研究課題である.5年ごとの定期的な改訂が予定されており,今後蓄積されるデータに基づいたさらなる洗練が求められている。

参考文献

Oldroyd, A. G. S., Callen, J. P., Chinoy, H., Chung, L., Fiorentino, D., Gordon, P., Machado, P. M., McHugh, N., Selva-O’Callaghan, A., Schmidt, J., Tansley, S. L., Vleugels, R. A., Werth, V. P., & Aggarwal, R. (2023). International guideline for idiopathic inflammatory myopathy-associated cancer screening: An International Myositis Assessment and Clinical Studies Group (IMACS) initiative. Nature Reviews Rheumatology, 19, 805–817. https://doi.org/10.1038/s41584-023-01045-w

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

臨床15年強のリウマチ膠原病内科専門医、JohnsHopkins大学公衆衛生大学院卒(MPH)。田舎→中核都市で日々親子タッグで3人の育児に奮闘中。最新論文のサマリや、MPHの視点からの行動経済学、疫学、統計や医療の雑感などを粛々と。

コメント

コメントする

目次